大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和42年(う)1083号 判決 1967年10月07日

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金四万円に処する。

右罰金を完納することができないときは一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人芦田礼一作成の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。

控訴趣意一について。

所論は、原審公判調書によると、原審は本件公判手続において、証拠調が終った後、検察官および被告人の意見陳述なくして弁論を終結している。これは結局右各意見陳述の機会を与えられていないことに帰し、特に被告人に最終陳述の機会を与えられなかったことは被告人の防禦権を奪ったことになり、刑事訴訟法二九三条二項、同規則二一一条に違反し、その違反は判決に影響することが明らかであるから原判決は破棄を免れないというにある。

よって調査するに、原審公判調書には証拠調の終った後、検察官および被告人の各意見陳述の記載なく弁論を終結した旨の記載あることは所論のとおりである。

刑事訴訟法二九三条には検察官に意見を陳述する義務を、被告人および弁護人には意見を陳述する権利を規定し、同規則二一一条には被告人または弁護人には最終に陳述する機会を与えなければならないことを規定している。しかし同規則四四条二八号によると、公判調書には、証拠調の終った後に陳述した検察官、被告人および弁護人の意見の要旨の記載を命じているだけであって、その陳述の機会の与えられたことおよびその陳述のなかったことの記載までを要求しているものではない。従って本件公判調書に検察官および被告人(本件においては弁護人の立会はない)の意見の記載がない以上反証のない限りこれらの陳述はなかったものと認めるのが相当であるが(裁判所はこれらの陳述を強制することはできないこともちろんであるからその陳述なくして弁論を終結しても手続の違法はない)、この場合、裁判所が意見陳述の機会を与えたかどうかは、この事項が公判調書の必要的記載事項でないから、その記載がない限り明らかとはいえない。然し被告人又は弁護人に最終に陳述する機会を与えることは通常行われている訴訟手続であるから、本件公判調書にその陳述の機会の与えられたことの記載がないからといって直ちにその手続がなされなかったということはできないのであって、他に反証なき限り被告人に対しては最終に陳述する機会が与えられたものとみるのが相当である。されば本件においては裁判所は被告人に対し最終陳述の機会を与えたのにかかわらず被告人は何等の陳述をしなかったものと認められ原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすべき法令違反なく、論旨は理由がない。

同二について。

所論は、原判決が被告人を懲役一月の実刑に処したのは不当に重すぎるから、破棄して刑の執行を猶予するか、罰金刑にせられたいというにある。

よって案ずるに、本件速度違反の態様にかんがみると、原判決の量刑も首肯できないこともないが、被告人には他種の前科はもちろん、交通法規違反の前科は一回もなく、本件につき深く反省し、将来再び違反を犯すこともあるまいと考えられるから、被告人に対しては罰金刑をもって処断するのが相当であると認められる。原判決はこの点において破棄を免れず、論旨は理由がある。

よって刑事訴訟法三九七条三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書によりさらにつぎのとおり判決する。

原判決の確定した事実に原判決掲記の各法条(但し罰金刑選択)および刑法一八条を適用し、主文二、三項のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田近之助 裁判官 藤原啓一郎 岡本健)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例